現代人の多くは、小説をパソコンで書いていると思います。いや、若い人はスマホで書いていることも多いと思います。そうした中で私はパソコンで書いています。古い世代の人間なので。
さて、パソコンは単なる箱です。そこでどんなソフトウェアを使うかで、できることが変わります。というわけで、「私はこういったソフトを使って小説を書いているよ!」という情報を書こうと思います。参考になれば幸いです。
まずは、小説の設計段階の話です。建築でいうならば図面を書く段階です。
小説の設計段階では、テキストエディタを使います。使っているテキストエディタは「秀丸エディタ」です。
IT業界では「古い人が使うエディタ」と揶揄されることも多いですが、テキストで物を書くソフトとしては、とても優秀です。「アウトラインプロセッサ」にもなりますし、柔軟な「シンタックスハイライト」もあります。「マクロ機能」も備えています。何より動きが軽いです。
- アウトラインプロセッサ:ツリー上に全体の構造を示してくれる文章作成ソフト。
- シンタックスハイライト:構文強調。色やフォントで、テキストの一部を強調してくれる機能。
- マクロ機能:ソフトウェアの特定の操作などを、プログラム的に記述できる機能。
ただ、マクロの仕様が古すぎるのは、かなり辛いです。そこは根性で乗り切ります。プログラマでない人は自分でマクロを書いたりしないので、あまり気にするところではないですが。
「秀丸エディタ」の何がよいって、とても安定しており高速なところです。かれかれ20年以上使っていますが未だに飽きません。手に馴染んだツールです。
私の場合、小説の設計はマークダウンで書きます。なるべくプレーンでありながら、そこそこの構造化ができるからです。
設計段階では、外出中に作業をすることも多いです。電車で移動中にプロットを書いたり。その際には、Kindle Fireに入れた「Jota Text Editor」を利用しています。
「Jota Text Editor」は、モバイルということを考えれば、かなりよくできたテキストエディタです。ただ、「ボタンのサイズが調整できない」とか「英単語の途中で折り返せない」とか不満があります。以前、ユーザーサポート宛てに要望を送ったのですが、「対応予定はない」という回答が返ってきました。残念。
設計段階では、マークダウンを使うと書きましたが、少しだけ仕様を拡張しています。そして、自作の小説設計管理ツール(仮:Novel Plan)を使い、ブラウザ上で整形表示をさせています。各情報間もリンクで移動できます。
こちらのツールはまだ公開していないローカルツールなので、時間があれば他の人も使えるようにして、公開したいところです。
設計が終わったあとは執筆です。図面を元に、家を建てていくような作業です。
小説の執筆は「秀丸エディタ」を使います。少し変わっている点としては、シンタックスハイライトを使い、日本語の文章を色分け表示していることです。
「全角スペース」「句点」「漢字」「その他」で色分けしています。こうすることで、文章を書いている時点で、どれぐらいの漢字比率か、一文の長さがどの程度になっているかが分かりやすくなります。
小説は、横書きで書いています。最初の頃は縦書きで書いていたのですが、年とともに、だんだん目が辛くなってきました。縦書きで40文字を画面に入れると、どうしてもフォントが小さくなってしまうのです。いかんともし難いです。
小説を書いたテキストファイルは、連番で管理しています。数KB書くごとに新しいファイルを作って保存しています。増えていく連番ファイルは、「Lhaz」を使い、複数のファイルをひとまとめにして7-Zip形式で保存しています。
以下、ITに強い人向けに、アルゴリズムの話をします。
小説のログの保存は、Zip形式よりも7-Zip形式の方が適しています。Zipで複数のファイルをまとめて保存した場合、各ファイルごとに圧縮用の辞書を作って圧縮します。対して7-Zipの場合は、全体を1ファイルと見なして辞書を作って圧縮します。
小説を連番で保存した場合、各ファイルの差はほんのわずかです。そのため、7-Zipでまとめて保存すると、驚くほど小さなファイルサイズにできます。
たとえば、200KBの連番小説ファイル20個(合計4MB分)を、Zip形式でまとめて保存したとします。この時、1MBになったとします。これは50KBに圧縮されたファイルを、20個結合した状態です(50KB×20=1000KB≒1MB)。こうした状態の場合、7-Zip形式だと50KBぐらいになります。1ファイルを圧縮した時とほぼ同じです。20個の連番小説ファイルの中身は、ほとんど同じなので。
こうしたログの管理について、プログラマの中には「Git」などのバージョン管理ツールを使うことを提案する人もいるでしょう。ただ、バージョン管理ツールは、大げさ過ぎるんですよね。やっていることに対して。テキストファイルを、遡ってぱっと見たいという用途には、連番保存+圧縮ぐらいがちょうどよいです。
連番の原稿の差分を確認するには、文章の差分を表示してくれるDiffツールを使います。こうしたDiffツールは、個人の好みで選ぶとよいと思います。私はいくつか試した結果「KDiff3」を選んでいます。
プログラマー向けのDiffツールには「行単位の差分」を示してくれるものが多いです。「KDiff3」は、デフォルト設定の状態で「文字単位の差分」を示してくれます。小説を書くには、こちらの方が都合がよいです。
また「F5」キーでリロードできます。テキストエディタで修正したあと確認することがよくあるので便利です。ただ、直前に表示していた行ではなく、文頭にスクロール位置が戻ってしまうのが、ちょっと惜しいです。
執筆が終わったあとの推敲です。私はこの作業を、映画のフィルムを切って編集する作業になぞらえています。小説という素材を、読者にとって最良の状態にもっていく作業です。
推敲の最初の段階は、「Just Right!」を使います。誤字脱字を強力に取ることができます。難のある表現も指摘してくれます。校正ツールですが、推敲の項に入れておきました。
新人賞への小説投稿時代、このソフトを採用してから、1つの作品ごとの作業時間が2週間は短縮されました。それほど強力です。47,000円のソフトですが、その金額分の価値があります。
ただ、細かな不満もあります。表記ゆれ辞書に「無視する単語」を設定できません。仕方なく、「追加の表記ゆれ辞書」を作り、製品のバグっぽい挙動を突くことで、無視する単語を作り出しています。表記ゆれの無視は、小説書きには必須の機能なんだけどなあと思うのですが。
自作ツールです。元々は「単語近傍探索」「文末重複確認」のような個別のプログラムだったのですが、小説家デビューが決まったあとに、統合ツールとしてリリースしました。
小説の宣伝半分、業界への貢献半分で、無料で公開しています。気に入った方は、私の小説を買って読んで布教してくれると助かります。
かなり多くの機能があるのですが、私がヘビーに使っているのは以下です。
表現を直したり、全体構成を見直したりに使っています。キーボードだけで操作できるように、かなりショートカットを作り込んでいます。
小説の推敲も半ばに入って来ると、紙に縦書きで印刷して確認をします。モニターだけだと見落とすミスも、紙に印刷すれば驚くほど取れるからです。
だいたい1作仕上げるのに、1000枚ぐらい紙を印刷します。この枚数が多い方か少ない方かは分かりません。その際、印刷に使っているのは「O's Editor2」です。
非常にお世話になっているソフトなのですが、仕様が古く、困ることが多いです。UTF-8に対応していないのが一番痛いです。
というわけで、そろそろ次の縦書き印刷のソフトを探して、移行しないといけないと思っています。
ただ、細かな設定をするのには時間が掛かるのですね。その時間を取るのが面倒なので「O's Editor2」のまま作業を続けています。
というわけで、ソフトウェア執筆環境ということで、私が利用しているソフトウェアを色々と紹介してみました。
参考になれば幸いです。
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