作者より
このお話は元はツイッターのフォロワーさんからいただいたお題でした。確か「黒いレース」だったような気がします。それをキーワードにお話を考えたとき、そのリボンを首輪代わりに付けた女性と、彼女を隷属させている男の姿が浮かんだのです。そこに恋愛の話を絡めてこのお話ができました。
2016年に一度初稿を公開したのですが、それを改稿したものを公開しております。
多くはありませんが、過激というか荒っぽい行為が入るお話なので、SM全般が苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
《序章》揺れる心
淡い光で照らされた部屋には、不規則な打擲音(ちょうちゃくおん)が響いている。それに、湿り気を帯びた切なげな吐息が混じっているせいで、淫靡な空気が漂っている。
乾いた音は、悠然とソファに腰掛けている男が発している音だ。
柳井(やない)は白いガウン姿で、部屋の中央に置かれているベッドの上で四つんばいになっている女を眺めている。手にした細長い杖(ケイン)で自らの手のひらを打つ姿は、厳格な教師のようだ。
鋭い視線の先には黒いレースのリボンを首に巻いただけの女がいて、女性らしいなだらかな曲線を描く肢体をあられもなく晒している。彼女はダブルサイズのベッドの上で、目隠しをされた姿で荒い呼吸を繰り返していた。
紗瑛(さえ)は、差し込んだものの感触を気にしながら、男の視線に耐えている。肉が付いていない背中は、吹き出した汗でしっとり濡れていた。わずかでも体を動かしたら、形の良い乳房の先端に付けられているクリップに付いたベルが鳴るようになっているから、自然と手足に力が入る。
黒いサテンのリボンで目隠しされているから何も見えない。視覚を奪われると、それ以外の感覚が鋭くなるようで、紗瑛も例に漏れず、視覚以外の感覚が鋭くなっている。
杖が皮膚を叩く音がいつも以上に大きく聞こえるものだから、耳にする度体が勝手に震えそうになるけれど、全身をこわばらせて耐えていた。
だが、意思の力でどうにもできないところだってある。埋め込まれたものを体が勝手に締め付けるだけでなく、潤みきった花(か)芯(しん)から新しい蜜があふれ出た。それはふっくら盛り上がった花弁を濡らしながら、秘裂に沿って莢(さや)から顔を覗かせたものへとしたたり落ちていく。
「んっ!」
痺れるような快感が敏感なところから伝ってきて、紗瑛は体をぶるりと震わせた。ベルの澄んだ音が鳴る。握っていたシーツを、更に強い力で握りしめた直後、ひゅんと風を切る音がした。右の裏腿に焼け付くような痛みが走る。
「ああ……っ!」
紗瑛は鋭い痛みに耐えきれず、海老反りに背をしならせて悲鳴を漏らす。それまで体を支えていた腕と脚から力が抜けてしまい、彼女はベッドに倒れ込んだ。長い黒髪が白いシーツの上に乱れて散らばった。
凜々しい顔を険しくさせた柳井が、呆れたようなため息を吐き出した。杖を手にしたまま立ち上がり、ベッドへ向かい歩き出す。
気配とともにカーペットを踏みしめる音が近づいていることに気づき、紗瑛は慌てて四つんばいになろうとした。だが、それより早く、顎を杖の先端で持ち上げられてしまい、紗瑛の表情が一瞬でこわばった。
「声をあげるなと言ったはずだ」
頭上から聞こえてきた声は、いつもより低い声だった。
紗瑛は震える声で返事する。
「も、申し訳ございません。で、でも……」
言い終える前に、顎を持ち上げていた杖がすっと離れた。
その直後、先ほどと同じところに激痛が走った。
「う……っ」
紗瑛が顔をしかめさせると、柳井は右手で、彼女の細い顎を掴んで持ち上げた。
「求められたことにだけ応じろと言ったはずだ、違うか?」
冷たい声で尋ねられ、紗瑛は息をのんだ。
「返事は?」
「は、はい。浩輔(こうすけ)さん」
「分かっているならいい。さて、そろそろ日付が変わるな……」
それまでの厳しい口調が和らいだ。唇に温かいものが触れる。
紗瑛は唇に触れたものを口に含んだ。男の親指だ。
キスに応えるように、濡れた指先がふっくらした唇を優しく撫でる。その感触に体が勝手に震えた。
「わたしを喜ばせろ」
尊大に言い放ったあと、柳井は杖をベッドの上に放り投げた。紗瑛の視界を奪っているものを取り払い、それも無造作に放り投げたあと白いガウンを脱ぎ捨てた。
それまで視界を遮っていたものを取り払われて、紗瑛がすぐさま目を向けたのは自分を見下ろしている男の顔だった。さきほどまで全く熱を感じさせない声を出していたとは思えない程、男の目は熱っぽかった。その目を見るなり、体の中心が溶けていくような気さえする。
見事に引き締まった体の中央にあるものは、猛々しくいきり立っている。筋がくっきり浮き上がっているものに、紗瑛は顔を近づけた。
両手で包み込むと、それはとても熱かった。触れた手のひらから脈が伝ってくる。なめらかな皮膚を痛めぬよう、細心の注意を払いながらしごき出すと、頭上から切なげな声がした。触れているものがわずかに堅さを増しただけでなく、ぐんと太くなる。目線だけ上げると、柳井と視線がぶつかった。
「キス、しろ。深く」
息を荒くさせた柳井から、熱っぽい目を向けられていた。その姿を目にした途端、下腹の奥がじわりと熱を帯びた。
両手で彼をしごきながら、紗瑛は先端を口に含み、喉奥まで迎え入れる。すっかり嗅ぎ慣れた男の匂いのせいで、淫らな気分になってくる。
「う……」
口内でびくんと跳ねる肉塊を舌で包み込むようにすると、頭上から息を吐き出す音が聞こえてきた。
柳井は息を吐き出したあと、紗瑛の頭に両手を伸ばす。乱れた髪に指を差し込んだあと頭に手を添えゆっくり引き寄せた。
「んっ……」
緩やかに怒張を押し込まれ、紗瑛は声を漏らす。
舌を動かすと、苦みが広がった。唇をすぼめて頭を動かすと、頭上から聞こえてくる息づかいが荒くなった。切羽詰まった息に混じってうめき声が聞こえてきた。
紗瑛は、口に含んでいるものを精一杯ほおばった。唾液を出すだけ出して口淫し続けていると、すっかり堅さが増したものが突然引き抜かれる。
「限界だ。いれるぞ」
そう言うなり柳井はベッドに上がって紗瑛の腰を両手で掴み、ぐっと引き寄せた。
唾液にまみれた怒張は、引き締まった腹にくっつきそうなほど、そそり立っている。
「広げろ。紗瑛」
紗瑛はベッドにうつ伏せになり、腰を高く上げたあと両手で尻たぶを掴んだ。
柳井に見せつけるように広げてみせると、すっかり熱を帯びた場所があらわになる。晒されたところにはあるべき茂みがない。そのせいで赤みを帯びて膨らんだ花弁や、ひくひくしながら温かい蜜を零す花芯だけでなく、アナルプラグの飾りがあらわになった。取っ手の部分にクリスタルが飾られたプラグは、部屋に着くなり差し込むよう命じられたものだった。
柳井は、紗瑛が広げたところを満足げに見下ろしたあと、割れ目に沿って勃起の先端を上下させた。怒張の先端でじくじく疼くところを擦られるたびに、声が漏れそうになる。
「ん……っ。ふうん……っ」
紗瑛はシーツに唇を押しつけて、漏れる声を押さえ込む。声を抑えれば抑えるほど、体に溜まる熱の密度が増して息が苦しくなってくる。しかし、息苦しさと同じかそれ以上の悦びに浸ることができる。現に今も、熱に苛まれながら悦に浸っている。
自分を今苛んでいるものが、これから激しく差し込まれる。そう思うだけで 意識が飛びそうになる。理性と本能の狭間でぎりぎり意識を保っていると、腰をしっかり掴まれた直後ずんと衝撃が走った。その瞬間、頭が真っ白になる。
「う……っ」
切なげに顔を歪めて、紗瑛は声を詰まらせた。花芯の奥深いところが切なく疼き、馴染んだものをやわやと締め付ける。柳井を包み込んだところから、悦がじわじわと迫ってきた。
柳井のサディスティックな欲望を満たしたあとのセックスは、とても激しい。獣と化した男に、荒々しく突かれまくるのだ。しかし、一度欲望を吐き出したあとのセックスは、一変してとても甘く優しい。身も心も蕩かされてしまい、ただただ悦楽に浸るのだ。
この三年、そうした逢瀬を繰り返した。それでいいと、覚悟を決めたときのことが紗瑛の頭に浮かぶ。いつかはこんな日が来ると覚悟していたし、そのときが来たからには、潔く身を引こう。紗瑛は激しく突かれながら、そう思った。
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