ホテルの一室に入ると、男性は梓を抱きしめながら後ろでにドアを締め、施錠した。
「俺は朝比奈佑輝。君の名前を聞きたい」
吐息と共につぶやいたくせに、噛みつくようなキスが梓の唇を覆う。
「んっ」
初めから、舌を絡め合うキス。佑輝の舌は遠慮なく梓の口腔内を冒険し、彼女を翻弄した。
梓も負けじと、彼の舌を吸い返す。息も出来ない。
(こんな激しいキス、……体験したことない)
「ふ、ぅん」
甘えた息が鼻から抜ける。
佑輝は口淫に夢中になっている梓をさらに陥落させるべく、彼女の後頭部と腰を引き寄せた。
梓も負けじと彼の首に腕を絡みつかせる。
佑輝に舌の奥の感じるところをまさぐられて、彼の首に回していた腕から力が抜けた。
甘い刺激が足に響いて、がくんと膝が折れたところを佑輝に腰を支えられた。
そのまま横抱きにされてベッドに運ばれる間も、佑輝は梓の唇を求めてくる。
ぽすり、と背中がマットレスに着地した。
「君の名を呼ばせてくれ」
上から覗き込んで来た佑輝が熱っぽい瞳で乞うた。
一夜限りの関係かもしれないと思うと苗字まで言うのは躊躇われた。
佑輝は彼女のためらいを理解したようだった。
「今は名前だけでいい」
かけられた言葉の意味が気になって彼の顔を見れば、目を細めた表情が予想以上に優しい笑顔だったので、さらに心拍数が増した。
「まだ、知り合って二時間も経っていない。君の懸念は理解できるよ」
梓は肩から力を抜いて、息を吐き出した。
「……梓」
自分にも聞こえないくらいの小さな声で名乗れば、彼がコツリと額を合わせてきた。
だが、と続けたとき佑輝は雄の貌に戻っていた。
「明日の朝、君は俺がどんなふうに愛するかを知るはずだ。俺も君がどんなふうに歓び、どう果てるのかを知ることになるだろう」
佑輝は梓の耳を食みながら楽しそうに告げた。
(えっちしたら、サヨウナラじゃないんだ)
嬉しさが、じんわりと体のなかで広がっていく。
梓の潤んだ瞳をどうとったのか、佑輝は。
「梓、君を俺のものにする」
恫喝と嗜虐心と希う気持ちがまじった双眸に魅入っていると口づけされた。