出版社 : 笠間書院
ISBN : 9784305705365
明治二〇年代、「小説家」不在の時代に
「小説家」を目指した、尾崎紅葉の覚悟とはーーー
紅葉作品は"近代小説か否か"という従来の視点から抜け出し、
同時代に存在した数多の小説群の中で相対的に捉える試み。
紅葉自身が意識していた、素材や場面を用いて小説〈世界〉を構築する
〈趣向〉という創作の観点から解析することで、紅葉作品の意義を検証。
同時に作品から見えてくる「小説家」尾崎紅葉の輪郭を描き出す。
【本書の試みは、紅葉の小説を、「新世界」と「趣向」という紅葉自身が意識していた創作の観点から読み解いていくことにある。そしてそのために、同時代の小説群との関係性において、紅葉の小説の意義を検証してみることにしたい。従来の文学史のなかで取り上げられてきた逍遙や二葉亭、鷗外といった一部知識人による小説よりも、もっと数多くあったはずの同時代の小説こそ、紅葉の射程には収められていたはずである。政治小説、翻訳小説、さらには改良小説と銘打たれ啓蒙的小説や、もちろん紅葉と同じ硯友社の書き手たちの小説、各種新聞紙の小説や、明治二〇年代にあらわれた文学雑誌の小説等々。当然、全てを網羅するということは不可能に等しいが、ある段階から、共通の素材や場面が、さまざまな作者の小説に繰り返し現れてくることが認識されるようになり、それは紅葉の小説も例外ではなかった。従って、それら同時代の小説群との相対的関係性を捉えることにより、当時における紅葉の「企て」の新しさや意味を明らかにすることができるだろう。......(「序章 紅葉から「読む」ために」より)】